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COVID-19 の影響下での児童精神科臨床

クリニック川畑  川畑友二

 

新型コロナの影響は、健康面や経済面だけでなく、多くの場面で見受けられる。

私のクリニックにも、子どもと向かい合う苦痛に耐えきれずに、20 歳ごろに経験していたリストカットを再び行うようになったという母親が緊急で来院し た。1 歳 3 か月の男の子の母親で、離乳食にてこずって思うようにいかないことにイライラしてのことだっ た。彼女はまじめな性格で、おまけにとても心配性であった。感染を恐れて外出することもできず、1 人で 悶々と子育てを行っていたのである。子ども家庭支援センターへ連絡して、すぐさま保育園に入園させることができ、彼女はいくぶん気持ちが安定した。

彼女の他にも、新型コロナに影響を受けているケースは少なくない。「新型コロナが怖い」と言って、自 宅から出ようとしなくなった子どもがいる。子どもを公園で遊ばせたいが、「何と言われるか」と近所の人の目を気にして、外出を控えている母親がいる。新型 コロナを理由にして学校に行かないことを正当化する 親子もいる。そして、自粛期間にこれまでになく家族 が互いに余裕をもって過ごし、関係性が改善したケースもあった。

学校や施設での生活も、大きく様変わりしている。「3 密を避ける」ために、卒業式や入学式、遠足、運 動会などが軒並み中止になった。分散登校しているというのはまだしも、給食の時間はおしゃべり禁止で黙々となるべく早く食べ終えることを徹底している学校もある。スポーツだけでなく、合唱部や吹奏楽部などの部活動もかなり制限された中で行われている。

これらは感染拡大予防の観点からやむをえないものであろうが、子どもたちの生活に、そしてその背後にある精神成長に大きな歪みを生じさせているのではないかと危惧する。学校行事だけでなく、社会全体すべての見通しがきかなくなった世界を子どもたちは経験しているのである。クリニックで聞く子どもたちの生活は、自宅での自由な時間は増えたものの、その時間の多くはゲームや YouTube 、そしてSNSでのやり取りで費やされていて、「心の自由さ」はますます減少しているようである。授業はネット配信で行われ、多くの課題を子どもたちはこなせないでいる。テレビでは ニューノーマルという言葉で、「これからの新しい社 会」を論じる論者もいるが、その世界も子どもたちにどのように影響するのか。「自粛警察」という言葉が出現したように、社会への不満を抱いている大人たちの姿は彼らにどう映るのか。フェイクニュースなど情報だけが氾濫し、何を信じたらいいのかわからない世界に突入するのではないか。常に言いようのない不安を頭の片隅に置きながら、彼らはこれからの世界を生き延びていくしかないのか。現実世界での「人との関係 性」は大事だよと伝えるべき、我々子どもに関わる人 間にとって、ますます難しい課題が突き付けられた。 とはいうものの、人類は有史以前よりペストや結核など多くの感染症を経験し、そしてそれを乗り越えて現在の社会を作り上げてきた。感染拡大後の破滅的な世界から立ち直るエネルギーを人類は持ち合わせてい るのだ。いずれにせよ、どのような未来が開けるかを決定していくのは、今現在を生きている我々大人の責任なのであろう。生半可な生き方の背筋を伸ばすべき時なのである。

日本乳幼児精神保健学会 学会誌 Vol.13 202