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新型コロナウィルスの流行と放射線汚染の不安に対する子育て支援の報告

― 子どもたちの危機への私たちが果たすべきこと ―

NPO ハートフルハート未来を育む会 郡山メンタルサポート 成井香苗

 

 1.はじめに  

2020年は新型コロナウィルスによるパンデミックが世界中に拡がり、見えない未知のウィルスが人々を不安に陥れた。福島においては 2011年に、見えない未知の放射線汚染という不安に曝されていたので、いつか来た道という感があった。それらの不安には明らかに共通する点と異なる点があり、不安がもたらす防護のための社会生活上の変化による二次被害にも共通点と相違点が起きている。そこで福島の放射線不安において用いた子育て支援の対策は、有効に活用できたところとさらなる工夫が必要になったところがあったので報告し考察したい。

  2.共通点  

2011年東日本大震災の津波がもたらした東京電力 福島第1原子力発電所の水蒸気爆発は、福島県を中心に無味無臭で見えない放射性物質を大地に降らせ、その放射線低線量汚染は人々の生涯にわたる健康不 安を引き起こした。当初その健康への影響がどのようなものになるのか専門家でも定説がなく、暫定的に定められた避難地域以外の人々には放射線防護のための行動を「自己責任で判断を」「適切に怖れること」と住民に判断が委ねられ、自主避難や屋外での活動、水道水・地場産食物の摂取など不安感の個人差による家族間や住民間で葛藤や分断が起きた。子どもたちは外で遊ぶことが禁じられ、幼稚園や学校が一時的に休校になった。除染が進むまでの2~3 年は外遊びの子どもの姿は消えた。

見えないものへの健康不安・地域や家族の分断・育児の孤立化は、現在の新型コロナウィルスの流行 (以下コロナ禍と記述)も同じだ。母親たちは感染への不安から人との接触を避け、孤独な育児を行なっている。今年3月に出産したある母親は、「コロナ禍によって育児が全く期待していたものと違ってし まった。出産後の手伝いのために他県に住む親が来 ることができなくなり、行政サービスの赤ちゃん教室も中止されママ友を作るチャンスもない。子育てや感染の不安なままに1日中、1人でこの子と向き合うしかなく、ストレスで声を出して泣いてしまう」と訴えた。東日本大震災の時に「絆」がスローガンとなった。すなわち危機に際して人は人との繋がりによって信頼と安心が生まれ、危機を乗り越えさせる力となってくれた。それはコロナ禍においても同じことだ。この育児の孤立化に対しては、臨床心理士と保育士、 地域保健師のコラボで行った放射線不安の子育て支援「親子遊びと親ミーティング」が応用できた。乳 幼児は親への愛着によって信頼と安心を得る。親たちは、友人や家族等との絆によってそれらを得られる。したがって「親子遊び」で愛着を促進し、「親ミーティング」で親同士の支え合いを生み出すことが 期待できた。

  3.相違点  

しかし 2 つの危機には以下のように大きく異なる点がある。放射線汚染は汚染源が外部にあるので人と人の接触に問題はないが、COVID-19 は人を介して感染が拡がるので、「ソーシャルディスタンス」「マ スクをつける」という人と人との密な接触を避けることが求められ、絆を結ぶのには不利な点だ。した がってコロナ禍の「親子遊びと親ミーティング」の支援もその点を工夫する必要に迫られた。

今年NPO法人ハートフルハート未来を育む会では、直接触れ合うのではなくWeb会議システムを使 って家庭にいる複数の親子を画面で結びつけ、親子遊びと親ミーティングを実施した。参加親子からは 「久しぶりに子どもと笑った」「子ども以外の大人と 話ができてうれしかった。皆も同じ気持ちだとわか って気持ちが楽になった」「専門家のアドバイスがも らえて良かった」との好評価を得たが、画面越しの触れ合いには限界があった。

Web会議型の支援では、各家庭に大画面のパソコンがあるわけではなくスマートフォンでの参加者も多かった。小さな画面では他の親子の遊んでいる様子を見たり感じたりすることが難しく、みんなで遊んでいるという喜びが弱くなった。親ミーティングでは 親同士話し合うことができて孤独を癒すことができる が、会場に集まって行うときのように子どもを保育士に預けて親だけでフリーになれるわけではなく、親のそばに子どもがいて気を使いながらのミーティングなのでストレスフリーというわけにいかなかった。また Web 会議を使いこなせる親もそう多くはなく、参加者に限りがあった。緊急事態宣言下や流行ピーク時にはWeb会議型の支援が有効だが、流行が落ち着いているときは集会場で検温しマスクを着け参加人数を絞っての支援も継続が求められた。

 

保育現場でもこの相違点に、大きな問題が見えてきている。保育士は「子どもたちが落ち着かない。指示 が入らない」と口にしている。マスクをつけた保育者の表情は乳幼児に読み取り難いうえに、感染を避ける という点から自然なスキンシップが減って相互交渉に影響を及ぼし、保育者との愛着形成にも支障が出ている。また、マスクで口元が見えないために発語も遅くなる傾向が心配される。福島の地震・放射線汚染は、 生活環境の変化からくるストレスで愛着形成不全が起 こったが、コロナ禍においてはもっと直接的に応答性が問題になり愛着形成不全が起きることが予想される。さらに当然インターネットへの依存は加速するので、それに付随した諸問題は深刻化するだろう。

  4.考察  

2011年の大震災・原発事故後の福島の乳幼児がどのように成長したのか、振り返ってみよう。ちょうどそのころからスマートフォンが出回ってきた。日本 において2013年にはスマートフォンの個人所有率が40%を超え2015年に50%を超えた。2014 年には LINE の登録者が 5200 万人を超えた。特に乳幼児を抱える被災した母親たちは、急激な生活環境の変化の中で情報がなく不安に揺れながら外は危険なので家にこもり、外に出たがる乳幼児をタブレットの動画やゲ ームでなだめ、自身はスマートフォンを手にインター ネットの情報やSNS に、不安で孤独な子育てへの救いを求めた。その結果子どもと親が向き合う時間は減 ってしまった。被災して安全基地としての家庭機能が 脆弱になった上に、子どもたちは親との相互交渉が不足し愛着形成不全による問題行動、ことばや運動機能 の発達の遅れ、肥満、ネットやゲーム依存とそれに伴って情緒や社会性の未熟という現象が起こった。

2011 ~ 2013 年には外遊びを制限されたが、家庭にいた乳幼児はストレスで奇声を上げたり母親を噛んだりしていた。保育所で「今年の 4 歳児はなにかお かしい、保育士の注意を聞かないで走り回る」という 訴えを聞いた。2013 年には、「今年の 1 年生は落ち着かないし乱暴だし 1 年生の担任は大変だ」という 小学校教師の声も聴いた。2014 年と 2015 年、私は県北部のある市の 1 歳 6 か月健診に関わったが、受 診児の約半数が発話の遅れや多動の疑いなどで「気になる子」としてフォローされる事態になっていた。ま た別に、保育園や学校で暴れる子・集団に適応できない子のプレイセラピーを臨床心理士として行なった が、自閉症スペクトラムやAD/HDと診断されていても愛着を回復しトラウマを克服すると問題行動が消失した事例を少なからず経験した。問題をかかえている子どもが増えて小児精神科は予約が取れない状況が現 在も続いているが、愛着の問題が発達障害と診断されるケースが多々あることが危惧された。

最近(2020 年 11 月)ケースカンファレンスで郡山市内の小学校教師である坂内智之氏が、「小学校において 5 年前から愛着障害と感じる子どもが激増している。暴力の発生件数が増え、これまでの教師の指導法<負(叱る)のモデル学習>と<正(ほめる)のモデル学習>が機能しない」と指摘した。「その原因は動画サイトやスマホの増加、親子の愛情のすれ違いにある」と訴えていた 1)。大人への信頼が築けず、行動を制止されると「クソ、死ね」と悪態をつく。それはスクールカウンセリングで私が経験していることで もあり共感した。ただ、私は震災・放射線不安の影響も大きいと考えている。次ページの図表1文科省学校基本調査、児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査の「学校の管理下・管理下以外における暴力行為発生件数の推移」2)と、表 2 福島県校内外暴力行為発生状況の推移を参照してほしい 3)。

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全国版の図表1を見ると平成 27 年(2015 年)度 以降小学校の暴力件数のみ急激に増加している。それ は全国的なスマートフォンやネットゲームの普及と呼応していることが考えられる。福島県の暴力行為発生状況の推移(表 2)を見ると、福島県内の暴力発生件数のうち小学校は全国と同じく平成 27 年度(震災時 2 歳だった子どもたちが入学した年)以降激増しているが、よく見ると平成 25 年(2013 年は震災時 4 歳児の子どもたちが入学を迎えている)から急増が始まっているとみることができる。中学校は全国の方は減 少しているのに対して福島県は中学校も平成 27 年度 以降急増している。

震災前年の2010年(平成22年)小学校は2件だったが 2019 年(令和 1 年)は 572 件に増加している。

 

中学校は、同様に 89 件から 339 件に増加。福島県の 1000 人当たりの発生件数は、1.0 件から 5.2 件へ と大きく増加した。全国の 6.1 件よりは少ないものの その増加率を比べると、全国が 1.4 倍に対して福島県 は 5.2 倍と大きく増加しており単にインターネットの 普及とばかり言えない。

震災前の平成 22 年度 1000 人当たりの暴力行為発生件数を基準にして、令和 1 年度(2019 年)の発生 件数の増加率を都道府県ごとに比較してみたところ、一番増加率の高かったのが福島県で 5.2 倍、2 番目が 沖縄県 4.5 倍、3 番目が秋田県 4.2 倍、4 番目が岩手県 3.8 倍、5 番目が青森県 3 倍であった。上位 5 番目 まで沖縄県を除いて東北地方で東日本大震災の被害の影響が考えられる。福島県は放射線不安の問題もあり増加率が高かったのではないかと考える。特に 30 年 度から R1 年度にかけての発生件数の増加が著しいが、震災後 9 年を迎えて震災後の支援が打ち切りになる 傾向がはっきりした年で、次々と支援が終わったが原発事故の問題はそこでは終わらないので、その不安が影響を与えているのではないだろうか? (沖縄県は基地問題で安全感が脅かされている)

こうしたことから、今回のパンデミック・コロナ禍も福島県同様に、ネット依存をさらに高め子どもの感情のコントロールを脆弱にして、さらには愛着形成に支障をきたし問題行動や暴力を多発させる恐れがあるのではないか。しかもそれは全国的に、いやそれは全世界に起こりえることではないかと懸念する。

子どもたちの幸せな未来を守る日本乳幼児精神保健 学会として、私たちは今その警告を強く発信するべきではないだろうか。マスク着用のため間主観的なかかわりが成立しにくく相互作用が損なわれやすいことを注意し、感染を防ぎつつ養育者と子どもの愛着と基 本的信頼を育む大切さを訴えること。養育者自身のネット依存やメディアへの耽溺の注意、さらには乳幼児に安易に動画やゲームを見せ子守させてはいけないこと。それは将来にわたって子どもの発達と幸せに影響があることを知らせ、上手にネットメディアと付き 合いながら子育てするための支援を提供していく必要があるだろう。そして、こうした災害や強いストレス下で孤独になりがちな子育てを支援していく持続可能な政策を政府にも求めたい。

引用
1)坂内智之 第 21 回気になる子どものケースカンファレンス「今、学校で何が起こっ
ているの?」気になる子どものカンファレンス実行委員会 2020.11.5(郡山市にて) 2)文部科学省学校基本調査「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」 3)令和 2 年度福島県青少年行政事業計画

参考文献
菊池信太郎他 郡山物語 福村出版 2014 成井香苗他 子育て支援と心理臨床 vol.9 福村出版 2014 p 74-79

日本乳幼児精神保健学会 学会誌 Vol.13 2020